コラム

別れさせ屋に必要な能力とは

先日、ノンフィクション作家の樹林ゆう子さんの訪問を受けた。
「ワインの雫」など漫画原作で高名な樹林伸さんの実姉で、共同作業で数多くの作品を生み出している。
今後の作品に活かしたいと、探偵ネタを仕入れに来たそうだ。
好奇心旺盛で、とにかく質問が途切れない。
尾行の方法、撮影術、聞き込みのテクニックや過去話など話は尽きなかった。
話していて感じたことは、先を読む力と想像力に非常に優れていること。
現実をしっかりと認識し裏付けを取った上で、その事実を反映させての先読み力と想像力である。
第一線で活躍しているノンフィクション作家なのだから当然だが、この力は探偵にとっても必要不可欠である。
別れさせ屋などの工作においては、ターゲットの懐に入り込んでいかなくてはならない。

相手の興味を引くように自分の設定を作りあげ、違和感を与えることなく、いつの間にか相手の心の中に入り込んでいる。
何も考えないでその場限りの対応をしてしまえば、どこかでボロが出てしまったり、辻褄が合わず疑われてしまう。
そうなってしまえば、それまでやってきたことが全て台無しになってしまうわけだ。
最初から最後まで整合性が欠けることなく、一つのキャラクターを演じなくてはならない。
自分がターゲットに話してしまったひと言が命取りになり、先々それが足かせになるようでは失格である。
こう話せばこのように反応する、こう切り返せばこう動くはずという具合に、計算して立ち回らなくてはならない。
別れさせ屋に必要なのは、この先読み力、そして想像力であって、これにより勝敗が決するといっても過言ではない。
このような力はマニュアルを作れるようなものではなくて、教本を片手に教えられるようなものではない。

では、どのようにすればこうした力が身につくのだろうか。
日常のあらゆる場面で、それを常に意識して実践することである。
例えば、コンビニに行き、1,050円の会計で1,200円支払ってみたりする。
コンビニの店員を見て、こちらの行動に対して彼はどうリアクションするのかを予想する。
それに対してこう切り返せば、店員はおそらくこう言ってくる。
それを幾種類かシュミレーションをした上で、実際に行ってみる。
尾行をするのでも、ただ追跡すればいいというものではない。
対象者が次に右を曲がるか左に進むか、常にその行動を自分の中で予想しながら尾行するのである。
もちろん、100%先読みすることは不可能だ。
しかし、日常からこのような訓練を繰り返し行うことによって、自分がイメージしたように相手が動く的中率というものが高まる。
このような地道な作業の積み重ねが能力を育むのだ。
本気で取り組んでいる別れさせ屋は、見えぬところで日々修行をしている。