あのときのショックがウソのように、私は落ち着いていました。
もちろん、心中、穏やかではありませんでしたが、少なくとも平静を装えるくらいには立ち直ることができていた。驚くほど冷静な自分がウソのよう。
味方がいるというのは、心強いものなんですね。悩みを打ち明けることの大切さをはじめて知りました。今もひとりで悩んでいたとしたら、どうなっていたことか。あのとき、思い切って『FAX探偵ドットコム』さんの門を叩いてよかったと思いました。
そして、三沢さんたちに話を聞いてもらって助かったと。少なくとも不安はありません。作戦は三沢さんたちがきちんと考えてくれましたし。私をこんなに苦しめている相手の女性は誰なのか。とても、ひとりで探ることなんてできない。頼りになるのは、やっぱりプロの探偵さんしかいない。
私の決断は正しかったと信じてました。私は早速、フリーメールに登録して、三沢さんたちとの連絡網を作りました。電話でのやり取りは細かい心情を伝える際にはいいですが、情報を正確に伝えるならEメールの方が便利だからです。自分のメールを使ったら、主人にバレてしまうと言ったところ、フリーメールでやり取りすれば大丈夫なのではとアドバイスしてくれたのは三沢さんでした。
こうして着々と準備は整っていったのです。あとは、主人の行動が怪しい日をピックアップして伝えるだけ。本当は毎日でも動きを見て欲しいところなんですが、それではお金がいくらあっても足りません。一気にお金を預金からおろしたりしたら、主人にも怪しまれてしまいます。私は、アドバイスに沿って可能性の高い日を絞って、効率のいい調査方法を三沢さんたちにお願いしたのでした。
相手のことを調べて材料が整ってからが本番。次のステップは、工作と呼ばれるものらしいですね。私も自分がこんなことになるまでは、まったく知りませんでした。世の中に、そんなものがあるなんて。人の心をお金で変えることができるなんて…。少し後ろめたいところはありました。でも、そんなことを言っている場合じゃない。三沢さんの言葉が頭を過ぎりました。
「悩みというのは、心に巣食った癌のようなものなんです。見過ごしていたら、心が壊れていってしまう。だから、調査という診察をしてから、工作という処置手術を行わなければいけない。だから、依頼するという行為は、決して恥ずかしいことではないんですよ」
私は、悩みという癌に侵されている。癌の元は相手の女性。それが、どこに巣食っているのかを調査で診断。どう取り除けばいいのかを判断し、工作という名の手術で摘出する。そういうことなんですよね? 三沢さん。そんな自問自答を繰り返しているとき、主人が帰ってきました。何食わぬ顔して「ただいま!」なんて言いながら…。でも、私は動揺なんてしません。自分の症状を理解しているから。そして処置方法も。
「もう体は大丈夫なの? 具合悪そうだったから、手紙残していったんだけど、心配してたんだよ?」
「うん、もう元気になったから。今日のゴルフはどうだったの?」
「え? あ、う、うん。まあまあだったけど、はじめてのコースだったからてこずったよ。ハハハ…」
はじめての“ホテル”ってこと? そうやって遊んでいればいいわ。もうすぐ、遊べなくなるんだから。今度のゴルフはいつなのか。予定を聞くことが楽しみになっている私。自分にそんな強さがあったなんて意外でした。それもこれも、三沢さんたちのおかげ。
悩みを共有してもらえる相手がいるのは、心強いものですね。一人で抱えていた重さが
軽くなったことで、余裕ができて主人にも平静を装うことができるようになったのです。
来る日に向けて、私の心も準備が整いつつあったのでした。