目を覚ましたときには、すっかりお昼でした。主人の朝ゴハンも作ってない。しかし、考えてみたら正常じゃない状態だった私。昨日の今日で主人と顔を合わせなくて済んだのは不幸中の幸いだったかもしれません。ベッドから出た私は、窓を開けて大きく深呼吸。昨日の衝撃からは、いくぶん立ち直っていました。そのとき、テーブルの上にあった置手紙を見つけたんです。主人が出掛ける前に書いていったものでした。
「気分が悪そうだったから起こさずに行きます。今週末もゴルフが入ってしまいました。週末はノンビリ過ごしてね」
めまいを伴う頭痛が頭を締めつけてきました。憎悪の感情をはじめて覚えた瞬間だったかもしれません。盗み見たメールから、 “ゴルフ=浮気”だということはわかっています。今週末も女遊びをするつもりのようです。やさしいフリして、私のことなんて、まったく心配していない。それが主人の素顔だった。冷たい人間だった。信じていたものが、まったくの幻想だったなんて。それからの数時間は、何をしていたのかよく覚えていません。でも、気がついたとき、私はパソコンの前に座っていたのでした。どうやらインターネットで何かを検索していたようです。キーワードの小窓には『浮気調査』と入っていました。私は何をしていたんだろう? 主人を調査してもらおうと思ったんでしょうか? そうに違いありません。そうこうしているうちに、段々、頭の中がスッキリしてきました。やはり、はっきりと探偵社を探そうとしていたんです。私。丁度、画面には『FAX探偵ドットコム』という探偵社がありました。変な名前。でも、じっくり読んでてみたら、なかなかしっかりした探偵社だという印象を受けました。
『こちらの希望する日程で調査をしてくれる』
『依頼を強要しない』
という姿勢も、良心的。それからほかの探偵社もいくつか見てみましたが、やっぱり『FAX探偵ドットコム』さんが気になる…。予定より早く終わったら返金というシステムも主婦の感覚としてはグッと惹かれるものがありました。
そこで、その日の夜中に相談メールを送ってみたんです。
対応は、とっても早かった。メールを送ったら深夜にも関らず5分程度で返信が来たのです。こちらを気遣った文面もあり、とても安心感がありました。
しかし、私にとっては大問題。会って話をしてみないと。そう思い、面談を申し込んだのでした。
面談予約当日、慣れない都内に出てきた私は、約束の時間より30分早く着いてしまったのですが、『FAX探偵ドットコム』さんに電話してみると、
「大丈夫ですよ。どうぞ上がってきてください」
という返答。そこは、普通のマンションにある探偵事務所でした。少し怪しいという思いもあったのですが、勇気を出してエレベーターに乗りました。ちゃんと話せるかしら。
監禁されたらどうしよう。怖い人が出てきたら警察に電話すればいいのかしら。
心配し出したらキリがない。思いきって、私は扉を開けたのでした。
「はじめまして。お待ちしてました。こちらへどうぞ」
出迎えてくれたのは、電話でも話をさせていただいた三沢さんでした。事務所の中は広々としていて、清潔な印象。そして、洒落た雰囲気の面談室に通された私は、出されたコーヒーに口をつける振りをしながら、内心では『落ち着いて、落ち着いて!』と、呪文のように心の中でつぶやいていたのでした。そうこうしているうちに、三沢さんとアシスタントの方が部屋に入ってきました。紹介もそこそこに、さっそく、本題へ。さすがは探偵さんですね。何から話をしていいのかわからない私を1から順にしっかりナビゲートしてくれたので、スムーズに面談を進めることができました。
調査の骨子はすぐにまとまりました。まとめると、次のようになったのでした。
『相手の女性がどういう人物なのかを調べる』
『どこに住んでいて、何をやっている女性なのかを調べる』
『どのくらいの頻度で会っていて、主人がどれくらいのめり込んでいるのか調べる』
『その女性に主人がダマされているかもしれない可能性も探る』
面談がうまく運んだことに安心したためか、次いで、私は三沢さんたちに思いっきり甘えてしまったのでした。裏切られて気を失うほどショックだったこと、探偵社に相談している自分がイヤになってきていること…。私は、咳を切ったようにしゃべり続けました。気が付けば5時間もの間、三沢さんは聞いてくれていたんです。アシスタントの方が何度もコーヒーを取り替えてくれたことか。実際は殆ど手がつけられず、今考えれば途中主人を思い出して激高し泣いてしまった自分がかなり恥ずかしいのですが・・・。あの時はそう、まるで、神父さんに懺悔しているかのような気分でした。不思議なもので、気持ちも落ち着いてきました。ひとしきり話すと、タイミングをみて三沢さんが
「ご希望はうかがいました。調べましょう。でも、調査結果の内容次第でお気持ちも変わるでしょうから、フレキシブルに構えていた方がいいですよ」
と、アドバイスしてくれました。冷静でいられる自信はないけれど、三沢さんたちが付いていてくれる。そう思うことで心のバランスを保とうとする私なのでした…。