この会社に入るとき、私はたしかにこう言いました。
はい。しかしですよ。適材適所というものはあると思うんです。
いいんですか? 所長。
こんな私を略奪愛を必要とする案件の工作員なんかに任命して…。
ルックスですか?
自慢できるのは、男らしい眉毛くらいなもの。
要するに毛深いだけなんです。はい。
その私が工作員。つまり、対象者が浮気をしている女性にアプローチを仕掛ける羽目に。
繰り返しますが、本当にいいんですね? 所長!
かくして私は、対象者男性を尾行していた調査員からの報告を受け、調布にある『味の素スタジアム』に向ったのです。はい。
調査員からは、対象者が女と落ち合ったという報告が。そんなこんなで現地に到着。
人ごみを掻き分け、調査員との合流を試みる私。
当日は『第5回・アサヒ飲料杯スポニチフットサル・クラブ選手権』が開催されておりました。
何でも、その試合には、『BAHIA(バイーヤ)』というチームが出場するらしいのですが、
このチームに俳優の袴田吉彦が所属している模様。
それで混んでるのかぁ。
スタジアム内の出入り口チェックのため、フラフラ歩いていると控え室を発見。
扉が開いてたので、ちょっと覗いてみたんです。
すると、そこに瀬戸朝香の姿が!
恋する乙女が愛する男の晴れ舞台を応援する。素敵です…。
お、そんなことより仕事だ、仕事。
調査員と合流を果たし、対象者カップルの席へ行くように指示を受けたのでした。
そのときです。
対象者を見た私に衝撃が走ったのは。
その対象者もすごい眉毛。
明らかに剛毛。
指で掻き分けないと腕時計も見えない私ほどではないですが…。
なるほど、所長は、対象者が毛深いということで、相手の女性は剛毛フェチだと睨んだのでしょう。
だから任命されたのかぁ。フクザツ。
今日の任務は、対象者が席を立ったところで彼女のまわりをうろつき、心に深い印象を残すこと。
接触はしません。熱い視線を送るのみです。
彼女も気づき、さりげなく見つめ合う時間が。
やっぱり毛が好きなんでしょうか?
年を跨いで、今年の2月にいよいよそのときがやってきたのでした。
時間を置いて、偶然を装い接触です。
彼女がひとりで外出したタイミングで路上ナンパ。
生涯初の試みです! イ、イクぞ!
「以前、どこかで会ったことありませんでしたっけ?」
もうドキドキです。
「ああ、あのときの。たしかフットサルの試合会場で…」
ナント成功してしまった!
そして、奇跡的にも、そのままデートという運びになったのでした!
私たちは、一路、お台場へ。
すると、そこでまた瀬戸&袴田カップルに遭遇!
こんなこともあるんですね。
ゲームセンターで仲良くUFOキャチャーなんかしちゃって、アツアツぶりを見せつけてるじゃないですか。
私も負けじとゴシゴシ…、じゃなくてイチャイチャ。
手をつないでるだけで腕毛が擦れるもんで、つい。
そんなふたりの破局が報じられたのは、あれから2ヶ月後のことでした。
彼のような男前でも失恋するのかぁ。
一方の私は、恋愛工作に自信がついて絶好調。
まあ、どの相手も、瀬戸朝香に遠く及びませんが、毛むくじゃら…、じゃなくて、仕事ですから贅沢は言えませんよ。はい。
【探偵ファイル NO・11】
ティッシュ配りに勤しむ女性。
実は弊社の工作員。
対象者男性は家と会社を往復する毎日で接触ポイントは皆無。真冬は冷えるし、
道行く人たちの反応も冷たい。
対象者の通勤ルートで配り続けること1週間。
苦難の末、対象者とデートの約束を取り付けた。
目的のためにはここまでやる。
それが探偵なのだ。?
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