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そんな中、栄えある第一回目を担当させてもらうからにはネタを出し惜しみするわけにはいかない。
しょっぱなからクソ真面目な話も肩が凝るので、女子アナのお色気抱擁ネタはどうだ!俺、この目ではっきりと見たんだよね。
ある芸能人のサインをもらってきて欲しい。
こんな依頼を受けて俺は「筋肉番付」(TBS系)の収録に潜り込んでいた。
先月の3日、場所は幕張メッセの国際展示場である。
芸能人も大変ですな。
朝の8時から各競技ハイレベルな争いで、息抜く間もない。
TBSの女子アナたちも競技の合間のインタビューに大忙しだ。
ふと見れば、ロンブーのアツシも駆けつけ後輩たちを応援している。
後半戦のモンスターボックスでは新記録、最高記録タイが次々と出て、会場は大いに盛り上がっている。
俺にとってはとにかく目が痛くなるような輝かしい世界だ。
俺は個人的に唯一の30代、同世代のIを応援していた。
若い者なんぞに負けるなよ。
奥さんと子供らしき親子も収録前半から彼を応援している。
年のころは20代後半から30代前半。
ブルゾンにデニム姿の彼女は、芸能人の妻としてはどちらかというと地味目の印象。
落ち着きのない子供をあやしつつ、ご主人に声援を送っている。
彼らの様子は本当に微笑ましいではないか。
同じ兄弟タレントであっても離婚でトラブルを起こした兄貴とは違う。
結果は20時間にも及ぼうかという戦いの末、見事Iの優勝で幕を閉じたのだった。
深夜の3時半頃だったと思う。
I優勝の心地よい余韻覚めやらぬ中、俺は席を立ちトイレへと向かった。
幕張メッセの構造上なのかセットの都合か暗幕等により入り組んでいて、セットの外は薄暗い。
関係者が待機する階段状の観客席の裏手の位置で、俺の行く手を遮るように男女が抱き合っているではないか。
細身の女の肩を男が両脇から支えるように。
女は軽く男の腰に手を当て、身を任せキスに没頭している。職業上の悪い癖だ。
一文にもならないアカの他人の抱擁シーンまで分析してしまう。
「うん?見覚えのある黒色のフード付防寒着だな。
I大先生ではないか。
感激のあまり奥さんと口付けか。幸せだな」
こう独り言を呟き現場を通り抜けようとした。
その瞬間、幕の上から光が漏れ、二人の姿が薄闇に浮かび上がった。
俺の視線を感じ取ったのか、パッと離れる二人。
何事もなかったように取り繕っても、もう遅い。
そして、俺の目に飛び込んできたのは予期せぬ女性だった。
その女性の正体は、「王様のブランチ」「はなまるマーケット」でもお馴染みのTBS女子アナ・T嬢だ。
服装も収録時のアナウンサー衣装のままだ。
場所もわきまえず、ときも選ばず、一分でも早く二人で優勝を分かち合いたかったのだろうか。
彼女は大学も英語が専攻で、熱い抱擁とキスが優勝の挨拶だったというアメリカナイズ的な言い訳はしないであろうが、芸能界の現実を目の当たりにしていささかショックであった。果たしてIは、家族と先に抱擁をしたのか。
それともT嬢が先だったのか…。書いておいて変な話だが、浮気はいつしかバレる。
しかも仕事中にやっちゃいかんよ。
兄貴の二の舞になるぞ。
彼女は愛読書に「小説 上杉鷹山」をあげている。
倹約の神様は果たしてこんな彼女を見て何を思うのか。
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