正直、途方に暮れてしまいました。騙された私は、冷静に考える余裕なんて残されていなかった。小さなトラックの中で育まれた夢の話。やさしく私を包んでくれた田島さんの笑顔。すべてがウソだったなんて…。信じられない。信じた瞬間、私は生きていけなくなる。まるで、心が崖の淵で足を踏み外しそうな感覚でした。店の前で男の人が言ったセリフが、いつまでも脳裏に響いていました。
「ここは私の店で、田島なんていう人のパートナーなんかじゃないですけど」
田島さんの店じゃない? 何、言ってるのよ! あそこは、田島さんと私の店。ゼッタイにゼッタイに、ウソなんかじゃない。田島さんがウソをつくはずがない! でも、心のどこかでは、騙されたことをわかっていました。現実が、冷たく私を嘲笑している。
『オマエは騙されたんだよ。馬鹿な女だ。会社まで辞めてしまって、これからどうするつもりなんだ!』
と。そのとき、携帯電話が鳴りました。田島さんかも! しかし、ディスプレイには、会社の先輩の名前が。いつも孤独感を感じていた私を唯一、理解して、仲良くしてくれた方でした。私は力ない声を出していたんでしょうね。きっと。何かあったことを察した先輩が、電話の向こうで気遣ってくれるのがわかりました。
「大丈夫? 由紀子。そうだ、今から会おうよ。ちょうど、私、何も予定ないし!」
うれしかった。とても、救われた気がしました。待ち合わせ場所と時間を決めて、電話を切りました。そのときは気付かなかったのですが、その場所は、田島さんとはじめて会ったときに待ち合わせた、あの喫茶店だったんです。店が見えてきたとたん、胸の鼓動が高鳴りました。あの日の光景がハッキリとよみがえってきてしまって。どうしよう、めまいが…。店のテラスで私の様子に気付いた先輩が、声を掛けてくれました。
「由紀子、どうしたのよ、いったい。普通じゃないよ?」
そう。普通じゃなかった。どうしていのかわからなかった。私は、咳をきったように、これまでのいきさつを先輩に話しました。田島さんとの出会い。ふたりで語った夢、そして、裏切られるまでの話を…。先輩は、黙って聞いてくれました。そして、私の気持ちをわかってくれました。両親だったら、「だから、言ったじゃないの!」と、怒るに決まってる。でも、先輩は、真剣に耳を傾けてくれたんです。
「とにかく、その田島ってヤツをみつけなきゃ。電話にも出ないんでしょ? 由紀子を弄んで、お金まで騙し取るなんて、ゼッタイ、許せない! 居場所を突き止めて、どなってやんなきゃ気が済まないよ!」
うれしかった。とても、心強かった。そう思った瞬間、涙が溢れてきて、人目もはばからず、号泣してしまいました。そして、ふと気付いたのです。実は、田島さんについて、私はほとんど何もしらなかったということを…。
「え、携帯電話の番号とメールだけ? その男の家とか行ったことないの? う〜ん…」そうですよね、先輩。私って、本当に馬鹿ですよね。そう思ったら、また涙が…。
「いや、なんとかなるかもよ。私の知り合いに、探偵を雇った人が居るから、聞いてみるよ。由紀子とは違う悩みを抱えてた人だったけど、調べるという意味では同じでしょ?知り合いが頼んだ探偵社なら信用できると思うし」
探偵? 調べる? 今までの私の人生の中で、まったく身近じゃなかった言葉。でも、先輩は本気でした。クヨクヨしていてもはじまらないと、私の肩を叩いてくれて…。
こうして、私の田島さん捜索ははじまったのでした。
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